君の名はとシン・ゴジラはコインの裏表
どちらも震災がモチーフになっている。
片方は様々なパワーバランスの上で
もう片方は恋愛を通して。
「こうであって欲しい」
という願いは映画の中で叶えられる。
皆の力を合わせれば。
震災の直前に戻れれば。
現実は違う。
福島原発が「アンダーコントロール」というのはどうしようもない嘘っぱちだ。
皆で力を会わせようと思っても縦割り行政と保身的な企業の前に怒りばかりが燻っている。
でも政府の嘘に怒るのは疲れたし
「放射脳」だ、「推進派」だ、と国民同士で蔑み合うのも疲れたし、
大切な人を思い出して悲しむのも少しだけど心が落ち着いてきた。
そんなタイミングでこの2つの作品は顔を出した。
原発を語ればお互いの主義主張でいがみ合うけど、映画を通して語れば自分のモヤモヤした感情を少し昇華出来る。
主義主張は譲れないけど映画の感想なら語り合える。
多分、本当は皆不安で語り合いたいのだ。
行く手は明るくないけれど。
それでも前に進むしかないから。
ジャングルブック
僕がモーグリよりも幼い頃、父が読んでくれたのがジャングルブックだった。
好きだったのは大蛇のカー。
小説ではカーはモーグリを可愛がるお爺ちゃんで、バンダーログの猿達からモーグリを助ける為に大活躍をする。
脱皮をすれば自分の瑞々しく生まれ変わった自分の体を満足気に眺めるナルシストな面も持ちながら、他の動物を捕食する時には催眠術をかけ、その効果は猿だけではなく、バギーラ等も引き込む力を持っている。
長生きで知恵者、肉弾戦だってかなりの強さだ。遺跡の壁だって頭突きでぶち破れる。
そんなジャングルのヌシ的なカーがディズニー版では何故間抜けな敵役になってしまったのか…。
他に記憶に残っているのは洞窟の中で宝を守る白いコブラだ。
ジャングルの動物は食べる為だけに命を奪うが人間が遺跡の財宝を巡って殺し会う不思議さをモーグリの視点から語られる。
それこそ少年時代の僕にとっても当時は不思議に思ったりした。
そんな思い出から映画を見に行った。
予告ではカーがディズニー版と同様の敵役だし、原作では若いオオカミ達やモーグリに森の掟を教える教師役のバール―が、だらしないオヤジキャラだし、そこまで期待はしていなかった。
が、結論としては楽しかった。
ディズニー版と原作の良いところが取り入れられ、リアルな描写で可愛かったり怖かったりと観ていて楽しい。
コミュニティの中で異質な自己の肯定というのが映画のテーマだと思うが、モーグリが”自分らしさ”で子象を助けるシーンはグッときた。
シーア・カーンはガチで恐いし、テーマも押し付けがましくない。
ただ、吹き替え版で見たので人の声が明瞭過ぎて残念。もののけ姫の猿、猪、オオカミ達のくぐもった声は発明だったのだなぁ。
もはや完全に別の歌だけどリトルグリーンモンスターの「君のようになりたい」
は好きだ。
しかしジョン・ファブロー監督はどんだけスカーレット・ヨハンセンが好きなんだろうか。
「君の名は」が最高だった。
そもそも新海誠監督の映画をまともに観たことはないのにジメジメした恋愛映画を作るイメージで敬遠していた。
恐らく予告を観てそう思ったのだろう。
今敏、細井守は結構好きだったのはそこまで恋愛が前面にくる作品ではなかったからだと思う。
本作を観たのはたまたま時間が空いていたからで、ホントはスーサイド・スクワットを見ようと思っていた。
観る気はなかったので軽くレビューを読んだらディザスタームービーであるらしい。
予告編だけは観ていて「高校生の男女が入れ替わるのか~、ツマンなそ~。」と思っていた。
で、たまたまタイミングが合ったので「ツマンなそ~」と「ディザスタームービー」がどう繋がるのか観てみたら
傑作だった。
始めは主人公はナヨナヨしたオタク系男子、というアニメオタクが好きそうなキャラクターかと思っていたが、弱いのに喧嘩っぱやい奴ということで好印象だし、
ヒロインが神社の巫女で「うわ~出た!オタクの願望的女子!エロゲーかよ!」という目線で観ていたらその妹が「お姉ちゃん"それ"を売って東京行きの資金にしようよ。メイキング作ってさ。絶対売れるよ。」というセリフで監督、分かってるね!と好感度が上がって気にならなくなる。
"それ"は映画を観て確認してほしいけど。
「オタクの願望的女子かよ!」等の気持ちをスッと解消してくれるのを「抜けが良い」って言うのだろう。
男女入れ替わりの場面もテンポが良くて楽しい。
ヒロインが流れ星を見つめるシーンからの物語の転換もガラッと雰囲気が変わってストーリーを締めてくれるし、終盤のヒロインとその友人達の企てもタイムリミットに終われる緊迫感と、「何かやってやろう」という高校生のイタズラ心がワクワクする感じが相まって疾走感があって良い。
転んだ時の掌の文字は、
ずるい。
の一言だ。凄く良い意味で。
ラストまでダレる事なく観る事が出来、非常に面白かった。
シン・ゴジラではリアルな3.11をゴジラを通して描いていた。
本作の流れ星が描いているのは3.11だけではない。チリの大地震、フィリピンの大津波など世界の災害全てを描いていると思う。
そして「あの時ああしていれば大切な人達を助ける事が出来たのに」と生き残ってしまった人達の心に残る作品だと思う。
そういう意味では世界的に普遍なテーマを持っている。
こうであって欲しい、という思いが詰まっていたし、ひとつの映画としても上手く成り立っている。
3.11を正面から語れなくても、ゴジラや本作を通じてあの頃を語る事で癒されるモノがある。
という意見を聞いた。
あの頃の映画は他にもあるけれど多くの人がどこかで語れるタイミングが今なのだと思う。
レゴムービー
主人公は常に皆と同じ行動を取ろうとするマニュアル人間(レゴブロックだが)。
自分自身がどうありたいのかよりも社会の規範らしきマニュアルを常に持ち歩いている。
しかし、友人だと思っている人達は彼をツマラナイ奴だと思っていて、まるで気にとめていない。
あるキッカケでブロックマスターなる世界を救う救世主に選ばれるが、今までマニュアルに頼りっぱなしなのでロクな活躍が出来ない。
そんな世界を破滅に追い込もうとする、おしごと大王(という悪者)から世界を救えるか、という内容。
思わぬ掘り出し物でした。
レゴブロックで構成された世界で、風景、炎、海の波、煙も全てレゴ。
レゴで構成された世界の映画なんて子供向き、という雰囲気も見事な脚本でむしろ大人向けに描かれています。
オープニングはマニュアル人間の主人公やその住人達がマニュアルに則した世界を賛美するミュージカル風で始まるのですが、人間が演じると露悪的になるような内容なのにレゴのキャラクター達が演じることでギリギリの毒っ気で一気に引き込まれます。
マニュアルだらけの世界でそれがいつの間にか自分の中で当然のものとして存在している僕自身の周りと僕自身が描かれているようで虚を突かれた感じです。
前半ではアクションもあるのでそれがちょっとレゴだらけで観難いところもありましたが。
後半、おしごと大王に追い込まれた主人公が見た世界。
それは主人公達が神と考えている者達なのですが物語の絡め方が非常に巧い。
父と息子の話しであり
創造性の肯定であり
レゴだけで全てを表現しようとする挑戦的な試みであり
と唸らされる作品でした。
ラストのオチも非常にお洒落でかつ楽しい。
X-MEN アポカリプス
うっかりハードルを下げるのを忘れていました。
ファーストジェネレーション、フューチャー&パストと良作だったけれど
アポカリプスを登場させるという規定路線にキャラクター達をはめ込むのが難しかった印象です。
神との対決以前に差別と偏見との戦いの方がリアルで根深い問題で
これを描いた前二作が最高過ぎました。
役者陣がミュータントのコスプレをしても気にならない物語の説得力が有った。
ファーストジェネレーションではそれが最前面に出ていましたが、
フューチャー&パストでは未来と過去を行き来するというやや厳しい設定ながらも
ラストのマグニートの演説でカバー出来ていました。
しかし、今回は差別と偏見が物語のキッカケ程度の扱いで推進力になるには力が少し足りなかった感があります。
どうしても取って付けた感が拭えない。
これをギリギリ救っているのはマグニート演じるマイケル・ファスペンダーの演技力で、強大な能力を隠しながら「普通の生活」を求めて社会に溶け込む努力とそこで疲弊していく姿を佇まいだけで語ってきます。
深い哀しみを背負った佇まいはそれだけで涙腺を刺激してくる。
反対にイマイチ実在感の無いのが肝心のアポカリプス。
千年生きてるのに、言葉に説得力がない。
カリスマ性を出そうとする努力は認めるが、神の名の元にテロや他国への
侵攻、神を担ぐ事で自己の利益を最大化しようとする人間が目立つ現代の社会で、自らを神と名乗ることの「軽さ」を感じざるを得ないんです。
その「神」の存在が軽いが故に彼を守る四人の従者の存在も軽くなる。
よって物語の説得力で目を瞑っていた、コスプレもどこのコミコン?
て気持ちになっちゃう。
俺のマグニートをそんな奴等の一員にしないでくれー!
そしてエンジェル、ファイナルデシジョンでミュータントと人間を繋ぐ
象徴的な役割をして感動的なキャラクターなのに本作では雑魚役…。
翼を鉄に替えた姿、俺、悲しいよ。
俺のエンジェルを…(略)
前二作の中の一番の推しmenであるミスティーク…なんか太った?
最前線で差別と闘うミュータントテロリストとして
もうちょっとシュッとならなかったのか。
マイケル・ファスペンダーの役作りに比べると役作りが物足りない気がしてしまう。
ファッションも、それが闘う戦士の衣装なのか。
閉じ込められた檻の外で爆発や流血が有っても冷然と構えるというクールな演技をすべきではないのか。等と思ってしまう。
ストームがそんなミスティークを尊敬し、英雄としているのは良いがその思いの強さをもっと描いて欲しい、でないと最後の感動的な行動も軽くなってしまうよ…。
文句ばかりだけど良いところもありました。
クイックシルバーが活躍するシーンは音楽も最高だし、
スタッフが楽しんでいるのも伝わってくる。
若いミュータント達がスターウォーズを観て
「三作目は駄作だ」
と言わせるのも洒落ている。監督、分かってるんだね…。
そしてナイトクローラーが可愛い。
若い頃は男全員嫌いだったけどオッサンになると心余裕がでるのか。
撫で肩で弱々しい感じなのに漂う色気は何なのか。
ミスティークに対する女々しい毎度のハンクの片想いもニヤニヤしてしまう。
好きな女を諦めきれなくてウジウジしやがってお前は俺か。
ウルヴァリン続編の伏線を張るためだけにを出す必要あったのか、
エグセビアの髪を脱毛しなくても良かったんじゃないか、
等ありますが疲れてきたのでとりあえずこの辺で。
シン・ゴジラ(前編)
正直言って庵野監督には期待していない。