【小説】帰って来たヒトラー

面白かったです。
 
現代に甦ったヒトラーが主人公で、
彼の独白で構成されている小説なのですが
ヨーロッパの体制、ドイツの首相、世相に対する
皮肉が言いたい放題です。
 
ドイツという普段遠い国の事なので
それこそ対岸のヒトラーという感じで眺められ楽しい。
例えるなら愛国主義マツコ・デラックスの内面を眺めているような気分です。
 
映画でよく描かれている"悪の親玉ヒトラー"より人間らしく描かれ、
現代社会と生真面目なヒトラー自身のズレを面白がっている内に、
このユダヤ人の大虐殺を指示し積極的戦争主義の独裁者が
何となく憎めないオヤジに見えてきます。
 
そしてヒトラーは演説の妙手。
この憎めないオヤジは"しゃべりの巧さ"でお笑い芸人と勘違いされたまま、
芸人として頭角を現します(本人は大真面目)。
 
ヒトラーも相手も話している内容が噛み合わないまま(でも一見噛み合って見える)話が進んでいくのを見て
コミュニケーションとはなんぞや、
という気持ちになります。
 
欧州やドイツの現状は知りませんが、日本とそっくりです。
スタバがあってドラッグストアのチェーン店が溢れていて、
誰が責任を負うのか分からずメディアが人権侵害を合法的に行い
個人を社会的に抹殺しようとする社会で「私が責任をとる!」
と言い切れるリーダーに僕達はどうしても惹かれてしまうのでしょう。
 
この小説の面白い処は時代錯誤のヒトラーを面白がっていると、
段々ヒトラーを憎めなくなってきて、その内ヒトラーを好きになり、
ヒトラーの主張が正しく思えてきてしまう処です。
 
彼は現代に来ても強烈な差別主義であるにも関わらず。
 
時代錯誤のオヤジをオモチャにしているつもりだったのに彼自身は独裁に邁進している怖さ。
この小説はヒトラーが現代のドイツで"独裁者"になる前日潭とも言えます。
 
この視点の転換に気付くまで僕は少し時間が掛かりました。
 
民主主義は無責任主義でもあるのですね。
誰も責任を取りたがらないし、僕だってそう。
何となく自分に都合の良い空気なら誰かが損しても乗っかりたい。
 
そんな社会はポイズンだけど人間てそんなもんだ、
とも思ってしまう。
 
小説は面白かったけれどマライ・メントラインさんの解説も素晴らしい。
的確で読みやすい文章。
どんな人なのか検索したら若い女性でホレました。
彼女の解説は必読です。

ケモナーへの道【ズートピア】

アイアムアヒーローを観てる時は何で俺はズートピアを選ばなかったんだろう。
と考えていたけど、いざ観てみたら案外物足りなく感じてしまいました。

ズートピアの造形は面白いしニックやジュディの独白は泣けたけど。
カタルシスに関してはアイアムア~の方が上でした。

だってニックってイケメンじゃないですか。
ジュディもなんかエロ可愛いし。
結局お前ら優秀じゃん。って僻みたくなる。

ジュディ可愛い-な-。
ってずっと思ってましたね。
僕の中でケモナーの血が目覚めかけました。

そして主題歌がシンドイ。

「何度も何度もやるのよ。失敗しても良いから。」

って歌詞で、夢を諦めないで。
という意味で使われているのだけど、和民とかで流れてたらどうしようって思いますね。
「失敗しても良いから」って言ってくれる人なんて現実の社会にはなかなかいないし。

もちろん自分のやりたい事を諦めるなって事で会社生活の事ではないけれど。
多様な社会の方が画一的な社会よりも良いけど適材適所と差別の線引きも難しいな、
と思いました。ナマケモノの受け付けとかクレームの嵐になりそう。

前から楽しみにしてた分色んな情報が入って来てしまったのでもっとフラットな状態で観たかったです。

楽しい映画だけど、隙が無さすぎて逆に面白くない映画でした。

今更ながら、【赤髪の白雪姫】の感想

初めて見たのはGyaO!のネットTVでした。

 
紹介文に薬剤師の女の子が主人公たとか書いてあったのか覚えていないがなんでクリック。
オープニングの軽やかなピアノのイントロでなんか面白そう、とは直感的に思いました。

そして製作はボンズ
僕の中でボンズは「桜蘭高校ホスト部」という神アニメを作ったスタジオとして記憶されています。
 
で、何となく見てたらやっぱり背景が綺麗で音楽も良い。
そして主人公のシラユキが可愛い。

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可愛いだけじゃなくて自分の持っている薬剤の知識を活かして自分を脅かす男と戦います。
知的!
凛々しくてカッコいい。

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知恵と勇気で自分の道を切り開く。これぞ物語の主人公。
ホレますよ。
しかも自分の宮廷薬剤師という目標に向かって、たゆまず努力する姿勢。
分け隔てない周りの人に対する気配り。
 
女神か。
 
そんな全方位に好感度の高さを振り撒く主人公にたかってくる男という虫共。
 
彼氏になる王子ゼン。少女漫画の王道の王子様。
イケメンっぷりに妬みの炎をチリチリさせながら眺めてました。

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(笹食ってる場合じゃねえ!)

 

過去に影があり高い格闘技術を誇り、ニヤけたお調子者を気取る(処が可愛い)オビ。
護衛という役割でシラユキを警護しているウチにシラユキに惹かれていきます。
良い声してるなー。キャラクターと声質ピッタリ。

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(もう準主役)

 

そして!
僕の推しメン。ラジ王子!

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一国の王子という立場なのに、民の気持ちを考えられない絵に描いたようなボンクラ王子。
シラユキが故郷を出ていかざるを得なかった元凶になっただけでなく、
王子という立場を利用してシラユキに対する度重なるストーカー行為の挙げ句
ゼン王子にシバかれ煮え湯を飲まされます。
 
それでもシラユキにと関わるうちに己の弱さに向き合って
シラユキの中でクソ野郎右代表から友人という立場まで名誉回復。
その上、文字通り相手の”立場”を考え、助けようとするという本作イチの成長を
見せます(第2期 20,21話)。
今までこんな美味しいキャラクターがいたのか、いや居ない。

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(ストーカーの癖にバイオリンも弾けちゃうよ!)

 
シラユキを中心に周囲の人達の成長と初々しいシラユキ,ゼンのカップルに萌えつつ
色んなキャラクター達の成長を応援したくなる爽やかなアニメでした。
 
 

AV女優 紗倉まなの「最低。」

以前AV女優と話した時に、なんでAV女優になったのか聞いた時、彼女は「憧れ」と答えた。

 

 僕にはよく分からない「憧れ」ですが、その言葉にウソは無いような気がしました。

人は自分にもウソをつくからホントの事は分からないけれど。

彼女は色んな事務所に面接に行ったらしい。

「それが私にとっての就職活動」と話していました。

 

作者が紗倉まなじゃなかったらどんな風にこの本を読んだのだろう。

作者の顔が見えないケータイ小説だったら手に取らなかったし、

読んでも「しょーもねーな。」と切り捨てていてもおかしくはない感じはしました。

 

この本は作品はAV事務所、登場人物の家族を軸に女性の持つ女性性、

孤独が4つの短編で描かれています。

 

1章 彩乃 AVに誘われて少女から大人になる過程での孤独。

行為中の心理描写も面白かった。

女性の寂しさと男性の寂しさは少し違うのかもしれない。

僕には共感できない寂しさが女性にはあるのでしょう。

2章 桃子 AV事務所を立ち上げる30代の男と彼女の話。

焦点は男の石村に当たっていると思っていたけど、

実はその彼女の心理こそがこの章の中心に感じました。

3章 美穂 女として扱われない事に不満を覚えAVに出演する人妻。

割りとありがちな話に感じ、やや浅い気がする。

4章 あやこ 家族間の女性性を巡るの精神的優劣感。面白かった。

女性に共感出来る話なのでしょう。

女が女として扱われる事の寂しさや劣等感、優越感は

僕には実感できないけれど、男が男らしい何か。

男らしいと周囲に思わせる為の涙ぐましい努力と近いものがあるのでしょう。

 

僕は女性の女性性を考えるよりも、自分が男である、という事を

周りに示そうとすることで、頭が一杯で余裕のない人間なんだなー。

なんて感じたりもしました。

 

作品全体ではユーモラスなキャラクターも描かれているけれど、

いつも孤独が漂っています。孤独というか”漠然とした寂しさ”かな。

 

文学を読む、という事は人間の"痛さ"を安全圏から眺める行為だとおもっているのですが

そこまで重い内容でもなくライトに読めました。

僕にとっての救いは男がAVを観る人間として罪悪感を感じさせられるような描写が少なかったこと。

 

感想が何となくまとまらないのは女性性が描かれているからこそで

男として実感しにくいこと、だからなのだと思います。

 

現代の若い女性にとってAVはそれまでの世代よりも身近な存在なのかもしれません。

女性が読んで共感できる本なのでしょう。

デッドプール

面白かったです。

映画を観た翌日になっても面白かった、としか言えない。

オープニングのスローモーションシーンで"脚本家  本当のヒーロー"って紹介があった時点でこの映画の楽しさは保証された気がしました。

 

デッドプールはおしゃべりで、観客に対しても話しかけてくるレアキャラなんですが、

色々な映画に対するデッドプールの皮肉はイチイチ頷きたくなるほど本質を突いてる。

「製作費ないの?」

「96時間の娘ってマヌケ過ぎるだろ」

エイリアン3リプリーそっくり!」

などニヤっとさせてくれる一言が満載でした。

この映画を製作してる人達も楽しそう。

 

「マカヴォイとかウルヴァリンとか時系列ワカんねーよ」の一言は

マーベル好きなら皆思ったでしょう。

ウルヴァリンのスピンオフX-MEN ZEROにデッドプールが登場し、役者も今回と同じライアン・レイノルズさんだからソッチに時系列合わせるのかな。

と思いきやS.H.I.E.L.D.Sの空中戦艦「ヘリキャリア」も出てくるし…。

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(イケメンな頃のライアンさん 。若かったなー。 forn X-MEN ZERO)

 

しかしウェイド・ウィルソンの造形も良いっすねー。

傭兵やってて口が達者で強くてっていうイケ好かない野郎なのに彼女を見る時のおびえた子供の様な目。

WHAM!について語る時の無邪気感。

不良なのに陽気で人気がある学校の先輩みたいです。

最終的には全身ピザ男になるからイケメンこの野郎!っていう嫉妬も躱せる無敵感。

 

俺もデッドプールになりたい。って男子は皆思います。いやあの顔は嫌か。

 

マーベルはX-MENの差別被差別問題や、アベンジャーズやバッドマンの様な正義とは何か、という答えの出ない十字架を背負った作品ばかりで正直しんどかったんですが、デッドプールの様な人間味あふれるキャラクターを眺めているのは楽しかったです。

ちょっとアントマンと被るような気もしなくはないけど。

 

観客に話しかけるっていうのもなんか一緒に映画を観ている共犯者みたいで楽しい。

(第四の壁って言うらしいけど第一~三の壁ってどんな壁なの?)

 

ほかの登場人物も皆いい味出してました。

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(ネガソニックなんとか。可愛い。)

 

 

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アイアムアヒーロー

原作漫画は未読でした。

原作者である花沢健吾さんの作品の絵が微妙に生々しいのと

コンビニでスピリッツを立ち読みしているときにチラッと読んだ時に妙に登場人物にイライラさせられるからなんか苦手なんです。

イライラさせる目的のキャラクター造形で単行本で読んだら面白いのかもしれないけど。

そもそもZQNてなんだ。ゾンビと言えゾンビと。
 
 
評判が良かったのでなんとなく軽い気持ちで観てきました。
ちはやふる~下の句~の直後に。
 
…何で俺はこの映画を観てしまったんだ!ズートピアにしとけば良かった。畜生!
 
テツコ、マジで怖かった。
気の小さいヤツは見るなって書いとけ!畜生!
 
ここでテレビ東京ネタかよ!畜生!
 
有村架純クソ可愛いやんけ!畜生!守りたいその笑顔。
 
という怒りの気持ちがかなり湧き上がってしまいました。
そしてちょいちょい入るユーモアも確実にツボを突いてきて怖いのに笑っちゃう。
冒頭の主人公の彼女の衝撃以降は段々ゾンビに慣れてきました。
テツコの攻撃力半端なさすぎ。怖すぎ。根性有り過ぎ。
ほかのゾンビはもっと根性出せ。いや出すな。
 
ドーン!バーン!グチャー!の連続でもテツコを乗り切れたら最後まで走り切れます。
この坂道は序盤だけだ。家に帰ってAV見てでんぱ組のPV見てから眠れば万全だ。
 
でも、映画にパワーが有るから翌日にはなんか元気になれます。
 
劇中で長澤まさみが「ZQNの方が幸せなのかもしれない。過去だけに生きていられるから」
とつぶやくシーンがあるんですが。
過去だけに生きていられる=ゾンビ
なら
過去のみに生きている人間もゾンビなのかなーって思いました。
人生の困難や諦めの象徴だったりするのかな。
 
今まで見たゾンビ映画ジョージ・A・ロメロのゾンビのみ。
ですが、有村架純が出てるだけで本作の勝ちって事で良いんじゃないでしょうか。

 

 
ホラーとかグロ描写とか苦手なのになんで僕はこの映画を観てしまったんだろうか。
ホントに。

ちはやふる~下の句~

 
「白波会に行っても良い。
でも二度と此処には戻って来るな。」
 
真島カッコいいなー。
 
こんな厳しい事を説得力を持って言える様な人になりたい。
能力・人格を磨くの大変そうだけど。正にリーダー。
 
そして
「なんかお前も一人でカルタ取ってんな。」
「もっと私達を頼って良いんですよ。」
肉まん良いヤツだなー。
カナちゃん天使だなー。
机くんの上目遣いキモいなー。
 
お前ら皆良いヤツかよ。
 
もうね、職場の人間関係にウンザリしている様な人たちが見たら
そんな人間いねーよ!って発狂しそう。
でも映画の中くらいはこんな奴らがいて欲しいよね。
 
広瀬すずだけに目がいかないキャスティングがホントに素晴らしい。
 
夏の日本家屋、制服姿の男女の高校生が部屋に二人きり。
カルタで心を感じ合うってエロスだなー。
 
からの終盤の
 
「…アンタか」
 
この三角関係も、良いよ!
 
この「下の句」はほぼ綾瀬、新、真島の三角関係だから「上の句」でチームを描いておいて良かったな、と思いました。上の句だけならなんで肉まん、カナちゃん、机君が同じチームとして所属しているのか分からなくなっちゃうし。
 
ちょいちょい挟まる引きの風景が綺麗でした。やっぱり福井県なのかな。
吹奏楽部の威風堂々からの近江神宮は映画ならでは。
音楽や引きの風景を味わえるのは映画館で鑑賞して良かったなと思います。
 
それにしても綾瀬はストーカーか。練習中は練習に集中しろ。
 
白波会の原田先生が言う
「ちはやちゃんとメガネ君は自分がなぜカルタをしているのか考える時期になったんだ。」とか
自分がスランプになった時に「楽しかった頃をイメージする」とかってセリフは色々と迷っている大人にこそ響くセリフも多いと思います。
 
映画としては「上の句」の方が、強くなりたいのに強くなれない机君とチームの在り方。
綾瀬に対する恋心を持ちつつも、情けない自分をどうして良いのか分からない真島。
カルタに対する真っ直ぐな思いを持つ綾瀬。
カルタの歌の意味が過去と現代をつなぐ普遍性の再発見。
等の要素が詰まっていて且つそれを無理なく一本の映画に収めた監督の鮮やかさが光るのに対し、
本作ではややパワーが落ちているとは否めません。
それでも楽しかったですね。
 
 
映画館内に運動会の振り替え休日で来てた子供たちがうるさかったからホントに言いたかった。
 
「この映画館から出ていけ。そして二度と此処には戻って来るな。」
 

 

 

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